
10月の花粉症と、長引く症状の「もう一つの原因」
秋も深まる10月ですが、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどが続くことがあります。その原因は花粉症だけとは限りません。この時期に考えられるアレルギーの原因について解説します。
1. 10月の花粉症 飛散カレンダー
まず、10月の秋の花粉症には、時期によって飛散する花粉の種類と量に以下のような特徴があります。
岡山県では例年下記のような流れです。
- 10月上旬(10月1〜10日): ブタクサとヨモギの花粉が飛散のピークとなり、特に強く症状が出やすい時期です。カナムグラも中等度のレベルで飛散しています。
- 10月中旬(10月11〜20日): ブタクサとヨモギは急激に減少し始めます。一方で、カナムグラはまだ中~弱レベルで飛散が続くことがあります。
- 10月下旬(10月21〜31日): 3種類の花粉とも飛散はかなり弱まりますが、症状が残る場合、一番しぶとく飛散しているカナムグラの影響が考えられます。
2. 10月中旬以降に長引く症状の注意点
上記のように、10月中旬になるとブタクサやヨモギといった主要な花粉は減少していきます。
もし、花粉が減るはずの10月中旬以降になっても症状が続く、またはなかなか改善しない場合、しぶとく残るカナムグラ花粉の影響だけでなく、ダニアレルギーが原因である可能性も考えられます。
秋は衣替えや、夏用の寝具から冬用の寝具への入れ替えなどを行う時期でもあり、ハウスダスト(ダニの死骸やフンなど)が舞いやすくなります。花粉症の症状が長引いていると感じたら、ダニアレルギーについても目を向けてみましょう。
では、その「ダニアレルギー」とはどのような病気なのでしょうか。
3. ダニアレルギーとは?
ダニは、家の中に住んでいるごく小さな虫で、アレルギーを引き起こす代表的な原因のひとつです。
このダニが出すフンや死がいに含まれる成分(アレルゲン)がホコリ(ハウスダスト)に混ざっており、空気中に舞い、それを吸い込むことで、アレルギー性鼻炎や喘息(ぜんそく)を起こすことがあります。世界では5億人以上がダニアレルギーによる症状に悩まされているといわれており、非常に身近な病気です。
症状と生活への影響
ダニアレルギーの症状は、鼻づまり・鼻水・くしゃみ・目のかゆみなどの鼻や目の症状のほか、咳や息苦しさなどの呼吸器症状が現れます。
しかし、それだけでなく、日常生活にも大きな負担を与えます。 とくに多くの人が悩まされるのは「睡眠の質の低下」です。
夜に鼻が詰まったり咳が出たりしてよく眠れず、翌日に疲れやすい、集中できない、イライラするといった状態になる人が多いのです。海外の調査では、ダニアレルギーの患者さんの約半数が「よく眠れない」と答えています。[1]
また、症状が強い時期には、睡眠不足の影響で日中のだるさや集中力の低下も悪化します。このため、仕事や勉強などの活動に影響が出やすいことがわかっています。なかには、症状のために定期的に仕事や学校を休む人もいます。
このように、ダニアレルギーは単なる「鼻水の病気」ではなく、生活の質(QOL)を下げてしまう病気なのです。[1]
4. 症状と季節の関係
花粉症は春や秋など季節限定で症状が出ますが、ダニアレルギーは一年中症状が続くのが特徴です。
ただし、ダニの数は季節によって増減するため、症状の強さにも波があります。
ダニが繁殖しやすいのは5~7月ごろ(梅雨前後)で、これらが死がいとなってアレルゲンとして増加しやすい9-11月に鼻づまりや咳が強くなる人が多くなります。[2]
一方で、冬には湿度が下がるため、症状が少し軽くなる傾向があります。
また、ダニにアレルギーがある人の中には、他のアレルゲン(花粉やペットの毛など)にも反応する人が多く、ダニ+他のアレルギーを同時に持つケースもよくあります。ヨーロッパの調査では、ダニアレルギーの人の約半数が喘息も併発していたという報告もあります。[1]
5. 原因となるハウスダニと家の環境
ダニアレルギーの原因は、家の中にいるダニのフンや死がいです。日本でよく見られるのは次の2種類です。

コナヒョウヒダニ(D. farinae)[2]

ヤケヒョウヒダニ(D. pteronyssinus)[2]
どちらも湿気を好み、特にベッドや布団、カーペット、ソファの中など、温かくて湿気のある場所に多く住んでいます。ダニのフンなどが乾くとホコリと一緒に空気中に舞い上がり、それを吸い込むことでアレルギーが起きます。[3]
最近の日本の住宅は、気密性や断熱性が高く、一年を通して湿度が保たれやすいため、ダニが増えやすい環境になっています。特に、エアコンをよく使う家庭では空気が乾燥しがちですが、コナヒョウヒダニは乾燥にも比較的強く、現代の住まいにも適応して増えています。[4]
また、ハウスダストにはダニ以外にもアレルギーの原因が隠れています。
- チャタテムシ(小さな虫でダニに似ています)
- カビ(真菌):特に寝具や湿気の多い部屋に多く見られます。 これらもアレルギーや喘息を悪化させる原因になることがあります。
6. 治療法と日常でできる対策
ハウスダニアレルギーの治療には、薬の治療と環境整備(アレルゲンを減らす工夫)を組み合わせることが大切です。
① 薬による治療 主に症状をやわらげるための薬が使われます。
- 抗ヒスタミン薬: 鼻水やくしゃみ、かゆみを抑える薬。
- 鼻用ステロイドスプレー: 鼻の炎症を抑える薬。
- 吸入薬: 喘息を合併している場合に使われることがあります。
多くの人はこれらを組み合わせて使用し、症状をコントロールしています。薬を正しく使うことで、生活の質が少しずつ改善していくケースが多いです。
② 環境整備(アレルゲン回避) 薬と同じくらい大切なのが、家の中のダニを減らす工夫です。とくに寝室は、一日の3分の1を過ごす場所なので、重点的に対策を行いましょう。
効果的なポイント:
- 寝具を清潔に保つ 布団やシーツをこまめに洗い、よく乾かすことでダニを減らせます。天日干しや乾燥機の利用もおすすめです。また、ダニが入り込みにくい高密度繊維のカバーを使うとより効果的です。(個人的な経験ですが、アメリカに住んでいた時に中古のベッドを購入した後は、完全に包まれるような高密度のマットレスカバーを使うようにしていました。一度ベッドバグかダニかに噛まれて大変だったので😭)
- 床を清潔に保つ カーペットや畳はダニが隠れやすく、掃除機でも取りにくい場所です。できればフローリングの方が掃除しやすく、ダニの数を減らしやすいです。掃除は週1回以上が理想です。
- ホコリをためない 空気中のダニのフンは重いため、床に近い場所にたまりやすいです。床や家具の下など、低い場所の掃除を念入りに行いましょう。
③ アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法など) 薬で症状がなかなか良くならない場合は、アレルゲン免疫療法を検討することもあります。
これは、アレルギーの原因であるダニ成分を少しずつ体に慣らしていく治療法で、体質そのものを改善することを目指します。 (舌下免疫療法については当院でもでコラムを掲載しておりますので、ご参照ください。) 治療には時間がかかりますが、長期的に症状が軽くなり、薬を減らせる場合もあります。鼻の専門家でもある耳鼻咽喉科専門医と相談して、自分に合った治療法を選びましょう。
7. まとめ
10月の長引くアレルギー症状は、花粉症が落ち着いた後に続くダニアレルギーの可能性があります。
ハウスダニアレルギーは、日常の中でじわじわと体に負担をかける病気です。鼻づまりや咳だけでなく、睡眠不足や集中力の低下など、生活全体に影響を及ぼします。
しかし、正しい知識と少しの工夫で、症状を大きく改善することができます。毎日の掃除や寝具のケア、そして必要に応じた薬の使用で、より快適な生活を取り戻しましょう。
つらい症状が続くときは、ぜひご相談ください。
【参考文献】
[1] Demoly P, Matucci A, Rossi O, Vidal C. The disease burden in patients with respiratory allergies induced by house dust mites: a year-long observational survey in three European countries. Clin Transl Allergy. 2020 Jul 1;10:27.
[2]名古屋市健康福祉局ホームページ https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/eisei/1015269/1034848/1015298/1034490/1034409/1015358.html
[3] Seasonal Changes in Mite Allergen (Der I and Der II) Concentrations in Japanese Homes. H Miyazawa et al. Annals of Allergy, Asthma & Immunology, Volume 76, Issue 2, 170 – 174
[4] Kawakami Y., Hashimoto K., Oda H., Kohyama N., Yamazaki F., Nishizawa T., Saville T., Asano N. and Fukutomi Y.:Distribution of house dust mites, booklice, and fungi in bedroom floor dust and bedding of Japanese houses across three seasons, Indoor Environment, 19 (1), 37-47 (2016).









