「最近、家族の聞き返しが増えた」

「テレビの音が以前より大きくなった」

「補聴器を勧めたいけれど、本人が嫌がりそう」

ご家族の聞こえが気になっても、どのように声をかければよいか迷うことがあります。

補聴器を使い始める時期は、70歳や80歳といった年齢だけでは決まりません。大切なのは、聞こえにくさによって会話や生活に困る場面が増えていないか、そして検査でどのような難聴が確認されるかです。[1,2]

補聴器は「何歳から」と決まっているものではありません

加齢に伴う聴力低下は中年期から徐々に始まり、65歳を超えると聞こえにくさを感じる方が増えます。[2,3]

ただし、同じ年齢でも聴力や生活環境は異なります。

  • 家族との会話で聞き返しが増えた
  • テレビの音量を指摘される
  • 複数人での会話についていきにくい
  • 騒がしい場所では言葉が分かりにくい
  • 電話や館内放送が聞き取りにくい
  • 聞き間違いを避けるため、会話が減ってきた

このような変化があれば、年齢にかかわらず一度聴力を調べる価値があります。

補聴器が必要かどうかは、聴力検査の数値だけでなく、「誰との、どのような会話に困っているか」を含めて判断します。

本人より家族が先に気づくことがあります

加齢性難聴は、多くの場合ゆっくり進みます。そのため、本人は現在の聞こえに慣れており、聞こえにくさを自覚していないことがあります。[3]

一方、ご家族は次のような変化に気づきやすくなります。

  • 同じことを何度も尋ねる
  • 後ろから呼んでも反応しない
  • 会話の内容が時々かみ合わない
  • テレビの音が大きい
  • 人が集まる場所で会話に入らなくなった

これは必ずしも、本人が話を聞いていない、理解していないという意味ではありません。聞こえにくさが背景にある可能性があります。

家族には、どのように声をかければよいですか?

「耳が遠くなった」「補聴器をつけた方がいい」といきなり伝えると、責められたように感じる方もいます。

まずは、本人を評価する言い方ではなく、具体的な場面を共有する方法がおすすめです。

伝え方の例

  • 「最近、テレビの音が少し大きくなったみたい。耳の状態を一度調べてみない?」
  • 「みんなで話すとき、聞き取りにくそうなことがあるけれど、困っていない?」
  • 「すぐ補聴器を買うのではなく、まず耳鼻科で聞こえを測ってもらおう」
  • 「一緒に説明を聞きに行こうか」

「補聴器を買いに行く」のではなく、まず「耳の病気がないか、聞こえを確認する」と伝えると受診につながりやすくなります。

補聴器を購入する前に、耳鼻咽喉科を受診する理由

聞こえにくさが、すべて加齢によるものとは限りません。

耳垢、滲出性中耳炎、鼓膜の異常など、治療によって改善する可能性のある原因もあります。また、急に聞こえにくくなった場合や左右差が大きい場合には、早めの診断が必要な病気もあります。

厚生労働省と日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、補聴器の購入前に耳鼻咽喉科医へ相談することを案内しています。[1,2]

とくに早めの受診が必要な症状

  • 急に聞こえにくくなった
  • 片耳だけ聞こえにくい
  • 耳鳴やめまいを伴う
  • 耳だれや耳の痛みがある
  • 聞こえが短期間で悪化している

これらの場合は、補聴器を検討する前に原因を確認する必要があります。

耳鼻咽喉科では何を調べますか?

診察では耳の中を確認し、必要に応じて次の検査を行います。

純音聴力検査

低い音から高い音まで、どの程度の大きさで聞こえるかを調べます。難聴の程度や左右差を確認する基本的な検査です。

語音聴力検査

音が聞こえるかだけでなく、言葉をどの程度正確に聞き分けられるかを調べます。

補聴器で音を大きくしても、言葉の聞き分けには個人差があります。補聴器に期待できる効果や調整目標を考えるうえで重要な検査です。

補聴器適合の評価

補聴器を装用した状態で、音や言葉がどの程度聞き取りやすくなったかを確認します。

価格や機能の多さだけではなく、ご本人の聴力と生活上の目標に合っているかを評価します。

補聴器は、つければすぐに何でも聞こえるようになりますか?

補聴器は、若い頃とまったく同じ聞こえへ戻す機器ではありません。

一方、適切に選択・調整された補聴器は、軽度から中等度難聴の成人において、聞き取りや聞こえに関連した生活の質を改善することが示されています。[4]

使い始めには、これまで聞こえにくかった生活音が急に入るため、「うるさい」「音が響く」「自分の声が気になる」と感じることがあります。

この段階で「自分には合わない」と決めるのではなく、

  1. 日常生活で実際に試す
  2. 困った場面を記録する
  3. 補聴器を再調整する
  4. 装用時間を徐々に確保する

という過程が大切です。[1,2]

必要な期間や調整回数には個人差があります。

高価な補聴器ほど、よく聞こえますか?

価格だけで効果が決まるわけではありません。

補聴器の選択では、次の要素を総合して考えます。

  • 難聴の程度と種類
  • 言葉を聞き分ける力
  • 自宅、職場、会議など困っている環境
  • 手先の使いやすさ
  • 電池式か充電式か
  • スマートフォン連携の必要性
  • 予算
  • 購入後に継続して調整を受けられるか

機能の多い機種でも、適切に調整されていなければ十分な効果を得にくくなります。反対に、必要な機能を絞った機種でも、生活に合った調整によって役立つことがあります。

補聴器と集音器は違います

補聴器は、薬機法に基づく管理医療機器です。聴力に合わせて周波数ごとの増幅や最大出力などを調整します。

一般的な集音器は、補聴器と同じ医療機器ではありません。聞こえにくさがある場合は、自己判断で購入する前に、難聴の原因と程度を確認することをおすすめします。[1,2]

当院で補聴器を相談する流れ

当院では、すぐに購入を決めるのではなく、次の順序で検討します。

  1. 耳の診察と聴力検査
  2. 語音聴力検査による言葉の聞き取りの評価
  3. 補聴器が役立つ可能性と限界の説明
  4. 補聴器の試聴・貸し出し
  5. 実生活での聞こえを確認
  6. 必要に応じて再調整
  7. 購入後の定期的なフォロー

補聴器を購入するかどうかは、試してから判断できます。

ご本人だけでは困っている場面を説明しにくい場合もあります。可能であれば、普段の会話の様子を知るご家族も一緒に受診してください。

補聴器の形と特徴 ― 自分に合うタイプを選びましょう

補聴器には、耳の後ろにかける「耳かけ型」、耳の穴に収める「耳あな型」、本体とイヤホンをコードでつなぐ「ポケット型」などがあります。

見た目だけでなく、聞こえの程度や耳の形、日常生活での使いやすさに合わせて選ぶことが大切です。 耳かけ型には、小型で目立ちにくい「RIC型(リック型)」もあります。

RIC型(リック型)― 現在主流の、小型の耳かけ型

現在、補聴器の中で最もよく選ばれているのが「RIC型」です。耳かけ型の一種で、耳の後ろに本体をかけ、音を出す小さなイヤホンを耳の穴に入れて使います。従来の耳かけ型とは、イヤホンが本体から分かれている点が異なります。

ただし、「主流だから、すべての方に最適」というわけではありません。 聞こえの程度や耳の状態、生活環境などによって適したタイプは異なるため、ご本人に合った補聴器を選ぶことが大切です。

従来型の耳かけ型 (BTE型)― 幅広い聞こえに対応するタイプ

補聴器の本体を耳の後ろにかけ、本体でつくった音をチューブを通して耳の穴に届けます。軽度の難聴から重度の難聴まで、聞こえの状態に応じた機種を選ぶことができます。大きな音の増幅が必要な方に対応できる機種もあります。

比較的つまみやすい大きさのものや、操作しやすい機種がある一方、耳の後ろに本体があるため、眼鏡やマスクと一緒に使う際の収まりを確認することが大切です。汗や湿気への対策も必要になります。

耳あな型 ― 耳の中に収まり、眼鏡やマスクと併用しやすいタイプ

補聴器の本体を耳の穴に収めて使います。ご本人の耳の形に合わせて作るオーダーメイドが一般的ですが、既製のタイプもあります。耳の入り口付近まで収まるものから、耳の穴の奥に入る小さなものまで、大きさはさまざまです。

耳の後ろに本体がないため、眼鏡のつるやマスクのひもと干渉しにくいことが特徴です。小型のものは、外から見て目立ちにくいという利点もあります。

一方で、小さな機種ほど、着け外しや電池交換などの細かい操作が難しくなることがあります。また、耳の穴の広さや聞こえの程度によって、選べる大きさ・機種が異なります。特に小型のものでは、出せる音の大きさや搭載できる機能に制約があるため、「できるだけ小さいもの」だけでなく、必要な聞こえと使いやすさを確認して選びます。

ポケット型 ― 本体を手元で操作できるタイプ

本体とイヤホンをコードでつなぎ、本体をポケットなどに入れて使います。スイッチや音量調節のつまみが比較的大きく、手元で確認しながら操作できることが特徴です。小さな補聴器の操作が難しい方にとって、選択肢になります。

一方で、コードが動作の邪魔になったり、本体と衣服がこすれる音を拾ったりすることがあります。使いたい場面での聞こえ方と、取り扱いやすさを確認することが大切です。

「どの形が一番よいか」ではなく、「自分に合うか」が大切です

補聴器は、形だけで性能の優劣が決まるものではありません。 同じ形でも、対応できる聞こえの程度や搭載されている機能は機種によって異なります。「目立ちにくいこと」「自分で着け外しできること」「会話を聞き取りやすいこと」など、ご本人が大切にしたいことを踏まえて選びましょう。

なお、「充電式」と「電池交換式」は、形とは別の違いです。充電式は小さな電池を交換する手間を減らせますが、充電器にセットして充電する必要があります。毎日の管理が無理なくできるかも、選ぶ際のポイントです。

当院では、耳の状態と聞こえを確認したうえで、ご希望や生活で困っている場面を伺い、補聴器選びをお手伝いします。購入を急がず、試聴と調整を通して、聞こえ方や使い心地を一緒に確認していきます。

補聴器と認知機能には関係がありますか?

難聴と認知機能の関係は、近年重要な研究テーマとなっています。

2024年に医学誌『Lancet』で発表された認知症予防・介入・ケア委員会の報告では、生涯を通じて対応可能な14の因子が整理されました。これらの因子を理論上取り除けたと仮定すると、世界の認知症の約45%が発症を予防、または遅らせられる可能性があると推計されています。[5]

この14因子の一つが、中年期以降の難聴です。

同報告が66万6,370人を対象とした研究を統合したところ、難聴のある人では、難聴のない人と比較して認知症の発症リスクが高い傾向が示されました(ハザード比1.37、95%信頼区間1.00–1.87)。また、難聴が認知症全体に関連する割合は、集団レベルで約7%と推計されています。[5]

難聴と認知機能が関連する理由としては、

  • 会話や社会参加の機会が減る
  • 聞き取りに多くの注意力や認知的な負担が必要になる
  • 社会的孤立や気分の落ち込みにつながる
  • 難聴と認知機能低下に共通する加齢性変化がある

など、複数の経路が考えられています。ただし、現在も研究が続いており、一つの原因だけで説明できるものではありません。

Lancet委員会が紹介した別の系統的レビューでは、難聴のある12万6,903人を2~25年間追跡した研究を統合し、補聴器などの聴覚補助機器を使用していた人では、使用していなかった人より認知機能低下の発生が少ない傾向が示されました(ハザード比0.81、95%信頼区間0.76–0.87)。[5,6]

ただし、これらには観察研究が多く含まれているため、「補聴器を使えば認知症を確実に予防できる」と断定することはできません。また、「約7%」という数字も、補聴器を使った個人の認知症リスクが7%下がるという意味ではなく、人口全体について計算した推計値です。

補聴器の第一の目的は、認知症予防を保証することではありません。会話を聞き取りやすくし、ご家族とのコミュニケーション、仕事、趣味、外出などの社会参加を支えることです。

聞こえにくさを放置せず、必要な検査を受け、自分に合った方法で聞こえを補うことは、日常生活を保つという点でも大切です。

患者さん向けFAQ

軽度難聴でも補聴器を使えますか?

使うことで生活上の困りごとが改善する可能性があれば、軽度難聴でも検討できます。聴力の数値だけでなく、仕事や家庭で困る場面を確認します。

80歳を過ぎてからでは遅いですか?

年齢だけで遅いとはいえません。ただし、操作方法や装用習慣を身につけるため、ご家族の協力が役立つことがあります。

本人が困っていないと言っています

本人が現在の聞こえに慣れている可能性があります。補聴器を強く勧める前に、まず聴力検査だけ受けてみる方法があります。

両耳につける必要がありますか?

左右の聴力、言葉の聞き取り、生活環境、予算などによって異なります。検査と試聴を踏まえて判断します。

補聴器本体に健康保険は使えますか?

補聴器本体は原則として健康保険の対象外です。聴覚障害の基準を満たす場合には、公的な補装具費支給制度を利用できることがあります。自治体独自の助成制度については、お住まいの自治体への確認が必要です。

まとめ

補聴器を始める年齢に、一律の基準はありません。

聞き返し、テレビの音量、複数人での会話など、生活の中で困る場面が増えたときが、聞こえを確認する一つのタイミングです。

まず耳鼻咽喉科で難聴の原因、聴力、言葉の聞き取りを調べ、そのうえで実際に補聴器を試し、生活に合うよう調整していきます。

ご家族が変化に気づいた場合は、「補聴器を買おう」ではなく、「一度、聞こえを調べてみよう」と声をかけてみてください。


参考文献

  1. 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会.補聴器を使って快聴ライフ!
  2. 厚生労働省.「聞こえにくさ」感じていませんか?
  3. 国立長寿医療研究センター.補聴器は何歳から必要?
  4. Ferguson MA, et al. Hearing aids for mild to moderate hearing loss in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2017;9:CD012023. PMID: 28944461
  5. Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572–628. doi:10.1016/S0140-6736(24)01296-0. PubMed
  6. Yeo BSY, Song HJJMD, Toh EMS, et al. Association of Hearing Aids and Cochlear Implants With Cognitive Decline and Dementia: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Neurol. 2023;80(2):134–141. doi:10.1001/jamaneurol.2022.4427. PubMed

更新日 2026年9月14日