🦻 「まだ大丈夫」が一番もったいない

「家族にテレビの音が大きいと言われる」「会話が聞き返しになることが増えた」──そんな変化を感じながらも、「年齢のせいだから仕方ない」「補聴器はまだ早い」と感じていませんか?

難聴を長く放置することには、聞こえ以外のリスクもあります。前向きコホート研究では、中等度〜重度の難聴は正常聴力に比べて認知症発症リスクが約1.6倍になることが示されており[1]、Lancetの認知症予防委員会は「難聴は認知症の最大の可変的リスク因子」と位置づけています[2]。今回は、補聴器について耳鼻科医がよく聞かれる疑問にお答えします。


🟢 補聴器はどんな人に必要?

補聴器が必要かどうかは年齢は関係ありません。「聞こえにくさが日常生活にどれだけ影響しているか」で考えます。

以下のような状況が続くようであれば、一度耳鼻科での聴力検査をお勧めします。

  • テレビのボリュームを人より大きくしないと聞こえない
  • 会話の中で聞き返すことが増えた
  • 静かな場所ならわかるが、騒がしいところだと聞き取れない
  • 電話での通話が聞こえにくい
  • 「何を言っているかわかるけど、何となく聞き取りにくい」という感覚がある

難聴は自覚しにくいことが多く、ご家族が先に気づくケースもよくあります。


🟢 補聴器をつける本当の目的は、「会話と生活への参加」を支えること

補聴器は、家族や友人との会話、仕事や趣味への参加、周囲の音への気づき、今ある聞く力の活用を支え、生活の困りごとを減らすための道具であることを示す図。

補聴器の目的は、単に音を大きくすることではありません。聞き取りに必要な音を耳へ届け、ご家族との会話、仕事、買い物、趣味、地域での交流など、その方らしい生活を続けやすくすることにあります。

聞こえにくくなると、会話のたびに何度も聞き返したり、内容を推測したりする必要があり、本人が思う以上に疲れてしまいます。「聞き間違えるのが心配」「話についていけない」と感じて、人と会う機会が少しずつ減ることもあります。補聴器は、こうした聞き取りの負担を軽くし、会話に入りやすくするための道具です。

また、玄関のチャイム、車や自転車の接近、館内放送、災害時の警報など、生活の中には音から得る大切な情報があります。すべての音を完全に聞き取れるようになるわけではありませんが、周囲の変化に気づきやすくなることは、安心して暮らすうえでも重要です。

難聴をそのままにすると、コミュニケーションの難しさだけでなく、孤立や孤独、認知機能への影響などとの関連が指摘されています[4]。一方、補聴器を含む聴覚への介入が、すべての方の認知機能低下を防ぐとまでは証明されていません。ただし、認知機能低下のリスクが高い高齢者では、聴覚への介入によって3年間の認知機能低下が緩やかになった可能性を示す研究もあります[5]

補聴器は、若い頃とまったく同じ聞こえに戻すものではありません。今ある「聞く力」を活かし、生活の中の困りごとを減らすための道具です。大切なのは、聴力の数値だけで決めるのではなく、「誰との、どのような会話に困っているか」「どの場面をもう少し楽にしたいか」を確認し、実際の生活で試しながら調整することです。

補聴器が支える4つのこと

  1. 家族や友人との会話を続けやすくする
  2. 仕事、趣味、外出などへの参加を支える
  3. 呼びかけや周囲の音に気づきやすくする
  4. 今ある聞く力を日常生活で活かす

🟢 補聴器をつけると、本当に聞こえがよくなる?

補聴器は音を増幅する機器ですが、単に「大きくするだけ」ではありません。現代の補聴器は人工知能(AI)を搭載したものも多く、周囲の騒音と聞きたい音声を自動で区別して処理します。

ただし、補聴器は眼鏡と違い、最初からすぐに快適に聞こえるわけではありません。ランダム化比較試験では、新規装用者が騒音下での語音聴取成績を改善させるまでに約4週間の慣れ(順応)期間が必要であることが示されています[5]。使い始めて「うるさい」「違和感がある」と感じるのはよくあることで、調整を重ねることが大切です。

当院では、認定補聴器技能者と連携して、丁寧なフィッティングを行っています。


🟢 補聴器の選び方──形の種類

補聴器にはいくつかの形があります。それぞれ特徴があり、聞こえの程度や生活スタイルによって最適なものが異なります。

耳かけ型(RIC型)
現在最も主流のタイプ。耳の後ろに本体、耳の穴には小さなスピーカーのみを入れる構造で、目立ちにくく音質も良好です。

耳あな型
耳の穴にすっぽり収まるタイプ。目立ちにくいメリットがある一方、ハウリングを起こしやすい。筐体が小さいため、耳かけ型に比べて出力や性能の面では同価格帯であれば劣ります。またご高齢になると小さな筐体の取り扱いが難しくなる点にも注意が必要です。軽度〜中等度の難聴に適しています。

ポケット型
本体をポケットに入れてコードでイヤホンにつなぐタイプ。操作が簡単なため、機械操作が苦手な方や高齢の方に向いています。また箱本体を相手に近づけることで、聞きたい音をより明瞭に大きく聞くことができるというメリットもあります。

どの形が合うかは、聴力の程度・耳の形・手先の器用さ・生活環境などを踏まえて一緒に決めていきます。まずは診察・聴力検査からお気軽にご相談ください。


🟢 補聴器は保険が使える?費用はどのくらい?

保険診療の費用:聴力検査・補聴器適合検査には保険が適用されます(自己負担3割で数百〜千円程度)。

補聴器本体:補聴器本体は原則として保険適用外です(医師の診断書があれば身体障害者手帳の申請が可能な場合があります)。医療機器として認証を受けた補聴器の価格は、軽度難聴向けで10万円台、中等度〜重度向けで20〜30万円程度が目安です。

自治体の助成制度:岡山市では身体障害者手帳(聴覚障害)をお持ちの方への補聴器購入補助があります。まずは診察で聴力の程度を確認し、対象となるかどうかをご説明します。


🟢 当院での補聴器外来の流れ

  1. 聴力検査:どの程度の難聴かを正確に把握します
  2. 補聴器適合検査:補聴器を使ったときにどのくらい改善するかを測定します
  3. 補聴器の試聴・選定:認定補聴器技能者と連携して最適な機種を提案します
  4. フィッティング・調整:使い始めてからの細かな調整を丁寧に行います
  5. 定期フォロー:装用状況の確認と継続サポート

最後に

「補聴器はまだ早い」と思っていても、早めの相談が結果的に一番お得です。聞こえの悩みは遠慮なくご相談ください。当院では、検査から補聴器選定・フィッティングまで一貫してサポートします。

まずは聴力検査からどうぞ。岡山市東区西大寺エリアの耳鼻科として、地域の皆様の「きこえ」を全力でサポートします。


参考文献

  1. Deal JA, Betz J, Yaffe K, et al. Hearing Impairment and Incident Dementia and Cognitive Decline in Older Adults: The Health ABC Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017;72(5):703-709. PMID: 27071780「中等度〜重度難聴は正常聴力と比べて認知症発症リスク約1.6倍(HR 1.55, 95%CI 1.10–2.19)」
  2. Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet. 2020;396(10248):413-446. PMID: 32738937「難聴は認知症の最大の可変的リスク因子」
  3. World Health Organization. Deafness and hearing loss. Updated March 3, 2026.
  4. Lin FR, Pike JR, Albert MS, et al. Hearing intervention versus health education control to reduce cognitive decline in older adults with hearing loss in the USA (ACHIEVE): a multicentre, randomised controlled trial. Lancet. 2023;402(10404):786-797. PMID: 37478886. :「補聴器などの聴覚サポートが、認知機能低下のリスクが高い高齢者においては、その進行を遅らせる可能性がある」
  5. Wright D, Gagné JP. Acclimatization to Hearing Aids by Older Adults. Ear Hear. 2021;42(1):193-205. PMID: 32769437「新規装用者が騒音下での語音聴取成績を改善するまでに約4週間の順応期間が必要」(RCT)