先日、私が米国留学中にお世話になった恩師、University of Iowaの Richard J. H. Smith教授が、 2026 Distinguished Mentor Awardを受賞されました。
この賞は、研究者としての業績だけではなく、 長年にわたり次世代の研究者や医師を育ててきた功績をたたえるものです。
受賞の記事を読みながら、University of Iowaの Molecular Otolaryngology and Renal Research Laboratories(MORL)で 過ごした日々を懐かしく思い出しました。
1.答えではなく、「挑戦する機会」を与える
私は渡米した当初、騒音性難聴の研究をしようと考えていました。
日本での研究経験からすると、必要な騒音発生装置は 専門の会社から購入するものだろうと思っていました。
ところがRichardから言われたのは、
「音響の専門家を紹介するから、自分で設計して作ってみたらいい」
ということでした。
大学内の音響の専門家の先生に相談しながら、 Amazonで買ったホールケーキ用の焼き型、 ラボにあったスピーカー、騒音計測機器、 そして小さなロッカーなどを組み合わせて、 試行錯誤しながら騒音発生装置を作りました。
今振り返ると、いかにもRichardらしい指導だったと思います。
答えを教えるのではなく、必要な人や環境にはつないでくれる。
そして、あとは自分で考えて、作って、失敗して、また考える。
今回の受賞記事の中でRichardは、研究環境を 「探求する機会でいっぱいの巨大な砂場」 にたとえています。
まさに、私はその砂場で思う存分遊ばせてもらっていたのだと思います。
2.少し先の機会を与えて、人を成長させる
渡米して半年ほど経った頃には、
「好きなだけラボで働いてくれていいよ」
と言ってもらえるようになり、さらに、
「自分のアシスタントを雇ってもいいよ」
とまで言ってくれました。
自分で求人を出し、応募者と面接をして、 実際に研究アシスタントを採用するところまで経験しました。
研究そのものだけではなく、人と一緒に仕事をすることや、 チームを作ることまで経験させてもらえたことは、 今振り返っても本当に貴重だったと思います。
また、分子生物学の教科書を共同執筆する機会や、 難聴に対する遺伝子治療についての総説 “Gene Therapy for Hearing Loss” を執筆する機会も与えていただきました。
当時の自分の実力を考えると、 どちらも決して当たり前に巡ってくるような機会ではありませんでした。
少し背伸びをしなければ届かない仕事を任せてもらい、 その期待に応えようと必死に勉強し、考え、書く。
そうした経験を通じて、自分が思っていた以上のことに 挑戦させてもらったのだと思います。
Richardは、できるようになってから機会を与えるのではなく、 機会を与えることで人を成長させる人でした。
そのことに、今あらためて深く感謝しています。
3.成果を一緒に喜び、人としての成長を支える
MORLに在籍していた日本人の先輩医師から引き継いだ研究を完成させ、 論文として発表できたときには、 ラボのみんながランチでお祝いをしてくれました。
Richardは今回の記事の中で、 「メンタリングの一部は、成果を一緒に祝うことだ」 と話しています。
あのときのラボランチを思い出しながら、この言葉を読みました。
Richardから学んだことは、研究の方法だけではありません。
人に機会を与えること。
必要以上に口を出さず、本人に考えさせること。
失敗する自由を与えること。
その人がまだ自分では気づいていない可能性を信じて、少し先の機会を渡すこと。
そして、うまくいったときには一緒に喜ぶこと。
今回の記事の中で、Richardはメンタリングを通して伝えたいこととして、 こんな言葉を残しています。
“Be kind, be generous, be thoughtful, and be courteous.”
(親切に、寛大に、思いやりをもって、礼儀正しく。)
とてもシンプルな言葉ですが、 Richardがどのように人と接し、 どのように人を育ててきたのかを、 そのまま表しているように感じます。
私は本当に素晴らしいBOSS、そしてメンターに 出会うことができたのだと思います。
今は私自身がクリニックの院長という立場になりました。
研究室とクリニックでは環境は違いますが、 人を育てるという点では共通することがたくさんあります。
スタッフ一人ひとりに機会を与え、 それぞれが自分で考えて成長できる環境をつくること。
少し背伸びをする機会を渡し、 その人自身の可能性を信じること。
そして、うまくいったときには一緒に喜ぶこと。
Richardから教わったことを、 今度は自分が少しでも次の人たちに渡していけたらと思います。
Richard, congratulations on this wonderful and well-deserved honor.
I was incredibly fortunate to have you as my boss and mentor.
University of Iowaによる受賞記事




