
アレルギー性鼻炎は、くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった症状が本当につらいですよね。特に学生さんは、授業中に鼻がムズムズしたり、夜ぐっすり眠れなかったりすることで、勉強や集中力に影響することもわかっています。
実は、アレルギー性鼻炎は、重症化すると睡眠障害や学習障害といった生活の質(QOL)の低下を引き起こすことが知られています。アレルギー疾患の有病率は年々増加しており、特にスギ花粉症の増加は顕著で、10代では約50%もの人がスギ花粉症にかかっているという調査結果も出ています。
アレルギー性鼻炎を放置せず、早期に適切な治療を始めることが、重症化を防ぎ、皆さんが支障なく生活を送るためにとても大切です。
🟢従来の治療と何が違うの?
これまで、アレルギーの治療といえば、飲み薬や点鼻薬で症状を一時的に抑える「対症療法」が一般的でした。しかし、これらは薬を使い続けている間だけ効果がある治療です。
それに対し、「アレルゲン免疫療法」は、アレルギーの原因となっている物質(アレルゲン)を少量ずつ体に取り込むことで、アレルギー体質そのものを根本から変えることを目指す、唯一の「根治的治療法」です。この治療法には、注射で行う「皮下免疫療法(SCIT)」と、自宅でできる「舌下免疫療法(SLIT)」の2種類がありますが、当院では特に自宅で手軽に行える「舌下免疫療法(SLIT)」をおすすめしています。
🟢舌下免疫療法(SLIT)の「素晴らしい」ポイント
SLITが従来の治療に比べて優れている点は、その効果と安全性にあります。
1. 体質を根本から変え、効果が長く続く
SLITは、体のアレルギー反応を引き起こす免疫の仕組みに働きかけ、アレルゲンに慣れさせていきます。その結果、アレルギー疾患の自然な経過を良い方向に変える(自然経過の修飾)という、一般的な対症薬物療法とは全く異なる意義があります。
治療期間は、世界保健機関(WHO)の見解でも3~5年間続けることが推奨されています。
2. 全身的な効果で、つらい症状をまとめて改善
SLITは、鼻のくしゃみ、鼻水、鼻づまりといった症状だけでなく、目の痒みや充血といった眼症状、さらには咳や喘息の症状など、全身的かつ包括的な臨床効果が期待できます。
特に中学生を含む小児において、アレルギー性鼻炎は気管支喘息と合併することが多く、鼻炎のコントロールは喘息のコントロールにとって非常に重要です。
アレルギー性鼻炎を持つ5~15歳の患者さんを対象にSLITの効果を調べた結果、SLITを受けたグループは、対症療法を受けたグループに比べて、3年間での喘息増悪率が有意に低いことが実証されています。これは、SLITが喘息発症リスクを抑制する可能性を示す、非常に期待できる効果です。
3. 痛みが少なく、自宅で安全に続けられる
SLITは注射を使わず、薬を舌の下に置くだけなので、注射の痛みがありません。また、重い全身性の副作用(アナフィラキシーなど)のリスクが、注射による免疫療法(SCIT)と比べて非常に少ないことも大きな利点です。このため、初回投与時のみ医療機関で30分間の観察が必要ですが、翌日からは基本的にご自宅で毎日服用することが可能です。
ただし、治療は毎日継続することが非常に重要です。薬を舌の下に置いて1分間、または完全に溶けるまで保持し、その後飲み込みます。服用後5分間はうがいや飲食を避け、服用前後の2時間は激しい運動や入浴、アルコール摂取を避ける必要があります。
🟢最後に
舌下免疫療法は、症状を抑えるだけの治療ではなく、長期間にわたってアレルギー体質そのものを改善し、喘息などの他のアレルギー疾患の発症リスクを軽減する可能性も秘めた、未来につながる治療法です。
アレルギーのつらさに悩まされず、勉強や部活動に思い切り集中できる毎日を手に入れるために、ぜひ一度、SLITについて詳しくご相談ください。
参考文献
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