🟢 「いびきがひどい」と言われて、そのままにしていませんか

「家族にいびきがうるさいと言われる」「朝起きても疲れが取れない」「日中、会議中や運転中に強い眠気に襲われる」——こうした経験がある方は少なくありません。
いびきは単なる生活音ではなく、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサインであることがあります。SASは、眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりする病気で、放置すると生活の質だけでなく、全身の健康にも影響を及ぼすことがわかっています。
今回は、SASを放置するリスクと、当院での検査・CPAP(シーパップ)治療の流れについてご紹介します。
🟢 いびき・SASを放置するとどうなる?

SASは「いびきがうるさい」だけの問題ではありません。特に頻度の高い閉塞性睡眠時無呼吸では、さまざまな健康リスクとの関連が報告されています。
高血圧のリスク:スペインで行われた前向きコホート研究では、SASのないグループと比べて、CPAP治療の対象であるにもかかわらず治療を受けなかった患者さんでは、高血圧を発症するリスクが約2倍に高いことが報告されています(調整後HR 1.96)。一方で、CPAP治療を継続していた患者さんでは、高血圧の発症リスクが低い結果も示されています(調整後HR 0.71)[1]。ただし、この研究は観察研究であり、「CPAPを継続できる方は健康意識が高い」など、患者さん側の背景が結果に影響している可能性も考慮する必要があります。
認知機能低下・認知症との関連:15件のコホート研究を統合したメタ解析では、睡眠呼吸障害のある方は、ない方に比べて、認知機能低下や認知症を発症するリスクが約1.5倍高いことが示されています(HR 1.52)[2]。ただし、研究によって診断方法が異なるため、この関連の強さについては今後も慎重な検討が必要です。
交通事故のリスク:SASのある方では、日中の眠気や注意力低下により、交通事故のリスクが高まることが報告されています。システマティックレビューでは、SASのある方の交通事故リスクは、SASのない方と比べておおむね1.21〜4.89倍の範囲にあるとされました[3]。また、別のメタ解析では、CPAP治療により交通事故リスクが有意に低下することも報告されています[4]。
特に、運転中に強い眠気を感じる方、信号待ちでうとうとしてしまう方、ご家族から強いいびきや呼吸の停止を指摘されている方は、早めの検査をおすすめします。
脳卒中・心血管疾患との関連:前向きコホート研究では、SASのある方において、脳卒中または全死亡の複合アウトカムのリスクが約2倍に高いことが報告されています(調整後HR 1.97)。また、睡眠時無呼吸が重症であるほどリスクが高まる傾向も示されています[5]。別の観察研究でも、未治療の重症OSAの男性では心血管イベントの発生率が高く、CPAP治療を受けていた患者さんでは、健常な方と同等に近い水準まで発生率が低かったと報告されています[6]。
一方で、すでに心血管疾患のある中等症〜重症のOSA患者さんを対象とした無作為化比較試験(SAVE試験)では、通常の治療にCPAPを追加しても、心血管イベントの発生は有意には減少しなかったという結果もあります[7]。
つまり、CPAP治療は、いびきや日中の眠気、生活の質の改善には非常に重要な治療ですが、「心筋梗塞や脳卒中を必ず予防できる」とまでは言い切れません。心血管イベントの予防効果については、現在も研究が続けられている分野です。
「たかがいびき」と見過ごさず、気になる症状があれば一度検査を受けることをおすすめします。
🟢 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?子どもにも起こります

SASは、眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりすることを繰り返す病気です。大きく分けると、空気の通り道である「気道」が狭くなることで起こる閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と、脳から呼吸をする指令がうまく出なくなることで起こる中枢性睡眠時無呼吸(CSA)があります。
一般的に多いのは閉塞性睡眠時無呼吸です。いびきを伴う睡眠時無呼吸の多くはOSAであり、大人だけでなく、お子さまにも見られます。一方、中枢性睡眠時無呼吸(CSA)は頻度としては比較的少なく、心不全、脳卒中、神経疾患、一部のお薬などと関連して起こることがあります。強いいびきが目立たない場合もあり、精密検査で確認が必要になることがあります。
大人のOSAでは、肥満、首まわりの太さ、顎が小さいこと、舌や軟口蓋(のどの奥)の位置などが関係することがあります。主なサインとしては、強いいびき、日中の強い眠気、朝すっきり起きられない、集中力の低下、起床時の頭痛などが挙げられます。
お子さまのOSAでは、扁桃肥大やアデノイド肥大が原因となっていることが多く見られます。扁桃やアデノイドが大きくなることで空気の通り道が狭くなり、睡眠中の呼吸に影響が出ることがあります。
お子さまでは、いびき、口呼吸、寝相が極端に悪い、朝すっきり起きられないといった症状に加えて、日中に落ち着きがない、集中しにくいといった形で現れることもあります。
大人・子どもを問わず、顎が小さい方、肥満のある方、鼻づまりが強い方は、特に閉塞性睡眠時無呼吸に注意が必要です。
🟢 検査からCPAP治療開始までの流れ
SASが疑われる場合、まずは検査で無呼吸の程度を確認します。

当院では、まずご自宅で検査機器を装着していただく簡易検査(自宅検査)であるアプノモニターをご案内しています。入院の必要はなく、普段の睡眠環境のまま、無呼吸の回数、呼吸状態、血中酸素濃度などを調べることができます。
簡易検査の結果、必要に応じて精密検査である終夜睡眠ポリグラフィー検査(PSG)を行い、無呼吸低呼吸指数(AHI)などを確認したうえで治療方針を決定します。
2026年6月の診療報酬改定により、CPAP治療の対象となるAHI(無呼吸低呼吸指数)の基準が見直されました。
| 検査方法 | 改定前 | 2026年6月以降 |
|---|---|---|
| 精密検査(PSG) | AHI 20以上 | AHI 15以上 |
| 簡易検査(自宅検査) | AHIまたはREI 40以上 | AHIまたはREI 30以上 |
この見直しにより、これまでよりも軽症の方でもCPAP治療の対象となりやすくなっています。「以前相談したときは治療の対象外と言われた」という方も、あらためてご相談いただける可能性があります。
ただし、CPAPの保険適用は数値だけで自動的に決まるものではありません。日中の眠気、起床時の頭痛、生活への支障、検査結果、合併症の有無などを総合的に判断します。
🟢 当院でのCPAP治療・フォローについて
CPAP(持続陽圧呼吸療法)は、睡眠中に鼻に装着したマスクから適度な圧力をかけた空気を送り込み、気道がふさがるのを防ぐ治療法です。
導入後は、月1回程度の定期受診が必要です。受診時には、機器の使用データを確認しながら、マスクのフィット感、残っている無呼吸の程度、眠気や体調の変化などをきめ細かく確認していきます。
CPAP療法指導管理料は保険診療の対象です。導入時には、機器の使い方、お手入れ方法、マスク装着のコツなどを丁寧にご説明します。
2026年6月以降、CPAPの使用状況を確認する体制がより重視されるようになりました。3か月連続して、すべての月で1日平均の使用時間が1時間未満の場合には、CPAP療法指導管理料が算定できない取り扱いとなっています。つまり、保険診療での治療継続が難しくなる場合があります。
CPAPはOSA治療の中心となる治療ですが、装着時の違和感、空気漏れ、鼻づまり、口の乾きなどで継続が難しい場合もあります。これらはマスクの種類や機器の設定を調整することで解決できることが多くあります。睡眠医療においては、CPAPの使用状況だけでなく、鼻づまり、扁桃肥大、顎顔面の形態、小児のOSAなど、耳鼻咽喉科領域からの評価も重要であることが指摘されています[8]。無理なく継続できるよう、小さなお悩みでも早めにご相談ください。
🟢 最後に
いびきや日中の眠気は、「体質だから」「疲れているだけ」と見過ごされがちですが、全身の健康に影響するSASのサインかもしれません。
高血圧、認知機能低下、脳卒中、交通事故などとの関連が報告されており、CPAP治療によって睡眠の質や日中の眠気、日常生活の安全性を改善することが期待できます。
一方で、CPAPによって心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントを必ず予防できるとまでは言い切れず、この点については現在も研究が続けられています。
2026年6月の基準改定により、これまでより治療を受けやすくなった方もいらっしゃいます。
「もしかして」と思われる方は、まずはご自宅でできる簡単な検査から始めてみませんか?
当院は岡山市東区西大寺エリアの耳鼻咽喉科として、いびき・SASのお悩みにも丁寧にお応えします。どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- Marin JM, Agusti A, Villar I, et al. Association between treated and untreated obstructive sleep apnea and risk of hypertension. JAMA. 2012;307(20):2169-2176. PMID: 22618924.
- Tian Q, Sun J, Li X, Liu J, Zhou H, Deng J, Li J. Association between sleep apnoea and risk of cognitive impairment and Alzheimer’s disease: a meta-analysis of cohort-based studies. Sleep Breath. 2024;28(2):585-595. doi:10.1007/s11325-023-02934-w. PMID: 37857768.
- Tregear S, Reston J, Schoelles K, Phillips B. Obstructive sleep apnea and risk of motor vehicle crash: systematic review and meta-analysis. J Clin Sleep Med. 2009;5(6):573-581. PMID: 20465027.
- Tregear S, Reston J, Schoelles K, Phillips B. Continuous positive airway pressure reduces risk of motor vehicle crash among drivers with obstructive sleep apnea: systematic review and meta-analysis. Sleep. 2010;33(10):1373-1380. PMID: 21061860.
- Yaggi HK, Concato J, Kernan WN, Lichtman JH, Brass LM, Mohsenin V. Obstructive sleep apnea as a risk factor for stroke and death. N Engl J Med. 2005;353(19):2034-2041. PMID: 16282178.
- Marin JM, Carrizo SJ, Vicente E, Agusti AGN. Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea-hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: an observational study. Lancet. 2005;365(9464):1046-1053. PMID: 15781100.
- McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, et al. CPAP for prevention of cardiovascular events in obstructive sleep apnea. N Engl J Med. 2016;375(10):919-931. PMID: 27571048.
- 中山 明峰. 睡眠障害治療の最先端―手術が敬遠された理由と今後の展開―. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 2016;119(1):14-21. doi:10.3950/jibiinkoka.119.14.








